和食の調味料「さしすせそ」について
世界中で愛されている和食。
日本人にとって家庭の味はそれぞれと言われていますが、和食に使用されている調味料には日本独特の表現方法で「さしすせそ」と呼ばれているものがあり、実はその順番や役割というものには全て意味があり、和食を美味しく仕上げる重要なポイントとして世代を越え、受け継がれています。
「さ・し・す・せ・そ」とは、「砂糖」「塩」「酢」「醤油」「味噌」を表現したもので、これらが和食の基本調味料となります。
和食料理を作る時などはこの「さしすせそ」には様々な種類と役割があり、使い分けることでありとあらゆる食材の旨味を際立たせることが可能となります。
そんな和食作りが楽しくなる「さしすせそ」の由来と和食料理を美味しく仕上げるコツをいくつか紹介させて頂きます。
砂糖
さしすせその「さ」にあたる砂糖。
お菓子に使用されているイメージが強いかもしれませんが、砂糖は多くの料理に使用され、食材に甘みを加えることはもちろんですが、砂糖に含まれている甘味には食材を柔らかくする働きがあるのです。
砂糖はサトウキビや砂糖大根と呼ばれるものから作られており、製造方法や精製度によって数多くの種類が存在していますがここでは料理によく使用される砂糖を三種類紹介させて頂きます。
上白糖
日本で最も多く出回っているとされるのが上白糖。
見た目は白く、しっとりとした感じが特徴的な砂糖です。
和食料理に必要なコクを引き出し、上白糖を使用することにより食材に深みが加えられます。
上白糖は溶けやすく風味にクセがないので、どんな料理にも使用しやすいです。
グラニュー糖
上白糖の他にも白い見た目のグラニュー糖と呼ばれるさらっとした感じが特徴的な種類の砂糖があります。
こちらは、ケーキやクッキーといったスイーツ作りには最適ですが、基本的に料理にはあまり使用されません。
三温糖
茶色く色付いたタイプの三温糖は他の砂糖よりも甘みが深くコクが強い為、他の砂糖と比べると独特な風味が特徴的で、臭みの強い食材に向いているので煮魚やこってりとした煮物料理などに最適です。
食材の旨味や深みを引き出す他にも、料理のツヤや香ばしくさせる作用があります。
砂糖には作った料理の保存に働きかけ、食材の水分を保つ役割りもあるとされ、他の基本調味料よりも分子が大きく、食材に浸透するまで時間がかかるので、まず最初に砂糖を入れます。
また一度に多くの量を使用するのではなく、回数を分けて少しずつ砂糖を加えると、更に染み込みやすく、食材も柔らかく仕上がるでしょう。
塩
食材の味を引き締める役割りを果たすのが塩。
砂糖で付けた甘味を引き出し、旨味成分も多く含まれています。
煮込み料理や炒め物といった加熱料理にはもちろん、漬け物やナムルなど熱を加えない料理にもお勧めです。
料理の味付けを整えると同時に、塩加減ひとつで料理の美味しさが左右されるとも言えるでしょう。
美容ケア用品としても人気を誇る万能な塩ですが、主に調理に使用される塩は二種類に分かれています。
海水塩
家庭でもスーパーでも多く見かけるサラサラとした粒がきめ細やかな精製加工されたタイプと、粒が粗く精製加工が行なわれていないタイプがありますが、どちらも海水を原料としています。
日本で生産される塩のほとんどが海水から出来上がったもので、主に食材の下ごしらえから、仕上げまで多様な役割りを果たし、最も一般的で使いやすいタイプの塩です。
サラサラとした粒の細かい精製塩は、料理の隠し味や味に物足りなさを感じた時に少量でアクセントを加えることが出来ます。
粒の粗いタイプの塩は主に焼き魚やオーブンを利用した焼き物などの旨味を引き出す役割として最適です。
岩塩
地層が変形し、かつては海であった場所に海水が閉じ込められ、海水に含まれる塩分が結晶に変化したものを岩塩と呼びます。
そのほとんどが海外から輸入されたもので、日本産の塩のように白色のみならずピンクやオレンジのような色の岩塩も多くあります。
ステーキなどの肉料理に使用されることが多く、臭みを排除する役割に優れている為、調味料に劣らずしっかりとした味のある食材には最適です。
塩は全体の味を引き締め食材の臭みを除くのみでなく、魚介類のぬめり取りや貝類の砂抜き、野菜や果物の発色を保つなど、味つけのみならず下ごしらえなどにも活用出来ます。
しかし、食材へ染み込むまでの時間が早く、水分を追い出し食材を硬くしてしまう作用がある為、食材を柔らかくする作用の働く砂糖を先に入れてから、次に塩を入れると良いとされています。
酢
近年の健康志向と共に、調味料に限らず注目されている酢ですが、主に穀物類を原材料とする穀物酢と果物類を原材料とする果実酢が多く出回っています。
酢の成分に含まれるクエン酸や酢酸と呼ばれるものには血糖値や血圧を抑える働きを持つうえに、疲労回復にも効果的です。
調味料としても、食材に酸味を加えることはもちろん、食材の腐敗や劣化を防ぐ作用があり、防腐剤や冷蔵庫など、食材の保存技術が発達していなかった頃から活躍していたようです。
酢は原材料によって異なる風味を持っている為、使用する食材によって様々なアクセントの変化が現れます。
穀物酢
日本でも最も使用されているのが穀物酢。
米、麦、コーンなどの穀物を原材料にした酢は大きくまとめて穀物酢という種類に当てはまります。
そのなかでも、米を原材料に作られた黄色味のかかった透明な色が特徴の米酢と、玄米などを原材料に作られた琥珀色が特徴的な黒酢が、主に調味料として使用されている穀物酢となります。
米酢は他の酢よりも比較的に酸味が強いですが、そのなかに米ならではのまろやかさや甘みが含まれた味わいを持っています。
一般的に酢飯として使用されているのが米酢で、お肉などを柔らかくする効果があり、料理の下ごしらえでにも最適です。
下ごしらえを行う際に使用した酢は、加熱により酸味を飛ばします。
酢の持つ酸味を強調したい場合は酢の物やドレッシング、サラダなどの加熱を行わない料理に使用すると風味を際立たせやすくなるでしょう。
一方で黒酢は、長い時間をかけて発酵されているので、香りが深くまろやかで深みのある酸味が特徴的です。
どちらかというと和食よりも中華料理に多く使用されますが、和食料理にも隠し味として黒酢を少々加えると、黒酢の持つ独特な風味がアクセントとなり、料理をより美味しく仕上げることが出来るでしょう。
果実酢
こちらも名前の通り、果物類を原材料とした酢で、代表的な果実酢としては、林檎を原材料とした林檎酢や葡萄を原材料とした葡萄酢があります。
穀物酢よりも酸味が少なく、果物ならではのフルーティーな甘みが含まれている為、健康ドリンクやデザートとしても多く使用されています。
穀物酢と同じように、酢の物やかくし味として活用することが出来るうえに、酢の持つ酸味が苦手な方も果実酢を使用することで食べやすくなるでしょう。
酢は、酸味を加えるだけでなく、野菜のアクを取り除き、食材の変色を防ぐ効果もあり、たんぱく質を固める作用が働くなど、古くから重宝されている調味料なだけあって万能です。
しかし、長期間放置してしまうと風味や効果が落ちてしまうので、常温ではなく冷蔵庫で保管しておくことがベストでしょう。
醤油
和食には欠かすことの出来ない日本の味ともされる醤油。
「さしすせそ」の「せ」の部分に醤油が表記されているのは、昔の言葉で「しょうゆ」は「せうゆ」と発音されていた為です。
醤油は主に大豆と塩、麦を原材料に作られており、発酵熟成され、塩気、旨味、酸味、甘味、苦味といった様々な風味が調和し、確立した味わいの調味料に仕上がります。
醤油の役割は風味を際立たせるのみならず、食材の色付けにも利用され、同じ日本のなかでも地域によって使用される醤油の風味や味は異なります。
大きく分けて関東地方では濃い口醤油、関西地方では薄口醤油をしますが、臭みの強い食材や色付けを重視する料理には、濃い口醤油が美味しく仕上がり、食材の風味を生かしたい場合やあまり色付けを重視しない料理には薄口醤油を使用すると美味しく仕上がるでしょう。
大きく分けて二種類ある醤油ですが、その他にも作る料理や用途により食材に向いた醤油がいくつか存在するので紹介させて頂きます。
濃い口醤油
主に関東地方で使用されている濃い口醤油ですが、料理サイトやレシピ本などで「醤油」と記載されているものは、基本的に濃い口醤油のことを指します。
その製造工程は、蒸した大豆と炒った小麦で麹を作り食塩水を加え、寝かせることで諸味を作り、更に一定期間寝かせるというもので大変手間が掛かけて製造されています。
この、濃い口醤油と呼ばれるものが代表的な醤油であり、ブリ大根や豚の角煮といったしっかりとした味付けを重要とする和食に最適です。
薄口醤油
主に関西地方で使用されている薄口醤油ですが、一般的に関西地方の家庭では薄口醤油と濃い口醤油の両方を家庭に置いていることが多いようです。
また、「薄口醤油」という名称の他に「淡口醤油」と表記されていることもあります。
薄口という名称から、味が薄く色味も含め出汁のようなイメージが持たれやすいですが、色が薄いというだけで実は薄口醤油の方が、濃い口醤油よりも多く塩分が含まれています。
色の濃さで料理の仕上がりを判断してしまうと、塩気が多くなってしまうので、少量ずつ加えながら味見を行うようにましょう。
食材の色を際立たい野菜をメインとした煮込み料理や、炊き込みご飯に最適です。
たまり醤油
主に中部地方で作られている醤油で、さらりとした濃い口醤油や淡口醤油とは違い、とろみがあるのが特徴的です。
たまり醤油の原材料のほとんどが大豆で、大豆に含まれるタンパク質が旨味成分を多く含み、たまり醤油特有の濃厚な味わいと香りがあると言われています。
その濃厚なとろみを生かし、照り焼き料理やうなぎのタレ、佃煮などに最適です。
しかし、風味が強い分使用する量には注意を払いましょう。
再仕込み醤油
元々は山陰や九州地方で製造されていた再仕込み醤油ですが、徐々に広まり、現在では全国的に製造が行われているそうです。
醤油は基本的に大豆と小麦と麹を発酵させたものに食塩水を調和させ仕上げていきますが、再仕込み醤油は、この食塩水の代わりに醤油を使用します。
そして同じように熟成させる為、濃厚な味わいが特徴的で、再仕込み醤油という名称の他にも甘露醤油とも呼ばれています。
色や香り、味わいがとても濃厚な醤油なので、冷奴やお造り、寿司などに最適です。
もちろん、調味料としても使用できますが、製造に手間が掛かっている分、通常の醤油よりも値段が高く設定されているので、基本的には加熱をするなど手をかけることなく、そのままの風味を楽しむことをお勧めします。
白醤油
主に愛知県にある三河地方で生産されていた醤油で、淡口醤油よりも色味の薄い醤油です。
醤油の原材料とされている大豆の割合が非常に少なく、主な原材料が小麦である為、料理に色付けをしない琥珀色の醤油になるよう製造工程のなかで熟成期間を短縮するなど、様々な工夫が施されています。
その独特な風味と優しい甘みが特徴的で、お吸い物やうどんつゆといった素材の味を活かした料理に最適です。
これまで濃い口醤油しか料理に使ったことがないという方も、様々な醤油の違いを使い分けてみることでいつもと違う味わいを楽しむことが出来ます。
醤油は時間が経つにつれ香りが飛んでしまいがちになるので、開府後は冷蔵庫にて保管しておくと良いでしょう。
また加熱により風味を失いやすくなってしまうので、香りを楽しみたい方は仕上げの時に使用することをお勧めします。
味噌
大豆を塩と麹により発酵熟成させることで作られる調味料が味噌です。
独特の塩気とふんわりとした甘みが特徴的な味噌は、醤油と同様で日本の味とされています。
味噌の中にも様々な種類が存在しますが、使用する麹によって味や香りの違いがあり、今回は主に調味料として使用されている四種類の味噌を紹介させて頂きます。
米味噌
日本で地域問わず最も一般的に使用されている種類の味噌です。
大豆と塩の基本ベースに米麹が加わり発酵熟成されたもので、関西地方で主流となっている白味噌も米味噌のなかの一種です。
味噌汁はもちろん、お雑煮や煮込み料理にも全国的にこの米味噌が使用されています。
麦味噌
主に中国、四国、九州地方で使用されることの多い麦味噌。
全国的に使用されている米味噌の米麹の代わりに麦麹を加え発酵熟成させたものです。
他の味噌に比べて甘みは少なめですが、麦麹の独特なコクがあり、汁物よりは田楽や炒め物などには最適です。
豆味噌
豆味噌は麹を加えず、大豆と塩のみを原材料として作られた味噌のことです。
色が他の味噌よりも濃く、塩気の強い味わいが特徴的で、名古屋の名物料理として有名な味噌煮込みうどんや味噌かつは、この豆味噌が使用されています。
合わせ味噌
米味噌や麦味噌、豆味噌をブレンドして仕上げた味噌を合わせ味噌と呼びます。
風味の違った味噌を合わせて仕上げることで、一種類では再現出来なかった風味や香りを楽しむことが出来ます。
味噌には、他の調味料ではなかなか取れない食材の臭みも消す効果があり、食材のクセを取り除きつつ旨味も引き出すことのできる優秀調味料です。
日本の代表的な家庭料理である味噌汁など、味噌の持つ独特な風味を生かせたい料理には仕上げとして最後に味噌を加え、煮込み料理など食材の臭みを取り除きたい場合は最初から味噌を加えて調理を行うといいでしょう。
味噌は空気に触れることで乾燥してしまい風味を逃がしてしまうので、しっかりと密封して保存しておきましょう。
以上、和食料理の基本ルールである「さしすせそ」を紹介させて頂きました。
料理に慣れていない方も、基本的な調味料と味付けをしていく順番を知り、実際に取り組んでみると良いでしょう。
「さしすせそ」を理解することは料理上手になる為の重要な一歩です。